前回は「死にたいって思っちゃダメなの?」についてでした。
今回は、「つい頑張りすぎてしまってつらい自分を追い込みやすい時は」についてです。
~目次~
・登場人物紹介
・「死にたい」とは
・自分の中にはいくつかのキャラがいる?
・自分の中のキャラが生まれるきっかけ
・何人もキャラがいるのは変じゃないの?
・井上祐紀先生から10代へのメッセージ
登場人物紹介
ゲスト:井上祐紀先生(児童精神科医/子どものこころの専門)
MC:太田尚樹さん
前回のYouTube Live「親が重い・逃げたい」に引き続き、MCを務めます。
「死にたい」とは
(前回の記事の続き・・・)投稿にも現れているように、死にたい気持ちを持っている子が多くいます。一方でみんな「死んじゃダメだ、死んじゃダメだ」といういう葛藤を抱えていて、本人も苦しいのではと思います。そういった感情はなぜ生まれるのでしょうか?
「死にたい」という気持ちを抱えるということは、それを起こさせる何かがあって、絶対に解決したい出来事があるはずなんです。さっき「許されたい」という言葉がありましたよね。

本当は、「これから離れたい」とか「これから許されたい」という気持ちが「できそうにないから居なくなってしまいたい」といった感情に変わっていってしまう。つまり、死ぬこと以外の解決をあきらめちゃったときに、少し死にたい気持ちが強くなってしまうのです。
本当は、自分がいなくなってしまうこと以外でなんとかできる可能性があって、死ぬこと以外でこのことをどうやって解決していこうかということを誰かに相談できる方がいいんだろうなと思います。
ただ、一番極端な時って「自分が何に悩んでいるかわからない」という場合もあります。原因がわかれば解決できる可能性がありますが、原因が何かわからないという状況ですね。
しかしその場合も「何かから離れたい、何かから自由になりたい、何かから許されて、本当は自分はどうしたかったか」というものがきっとあるはずです。そっちを実現できるお手伝いができたらいいなと思います。
投稿者さんは頑張り屋さんだし、すごく優しい方が多い印象があります。「自分が頑張らなきゃ」、「周りではなくて、まず自分から」ってすごく思っている。思いやりのある方がすごく多いなという様に思いました。
実は自分の心も1つではなくて、「頑張りキャラ」みたいなのを強く持っている人もいれば、少し「のんびりキャラ」みたいなものを持っている人もいたりいます。
そういった場合には恐らく頑張りキャラというのがブワーって出てきているのですね。そしてそれが、疲れてしまうとドーンと落ち込む、そんなこともあるのだと思います。
自分の中にはいくつかのキャラがいる?
これは自分で自分をケアする1つのコツなので紹介したいのですが、もしかしたら自分には頑張りキャラがいるんではないか、自分の気持ちの中に、頑張りたい性格の一部にいるのではないかって思ったら、そのキャラと対話するといいですね。「もし、頑張らなかったら、何が起こるの?」って。

「もし頑張らなかったら、何が起きそう?」「一番最悪の状態ってどんなこと?」って話しかけてみます。見捨てられるとか、頑張らなかったらこうなってしまうという話がやっとそこで出てくるかもしれません。
頑張りキャラというのは、これはこうするべき、もしこれができなかったら、とってもまずいことが起こるみたいなこととセットで頑張っちゃっていることがあります。ですので、自分で自分の心に聞くって何か変なように思えますが、自分の中に頑張りキャラ前に出ているときにはそんな対話ができたらいいのではと思います。
自分と対話する時、この質問から自分でまず考えてみようとか、何かそういうやり方はあるのですか?
ノートやホワイトボードに「自分の中にこんなキャラがいるなあ」って書いちゃってもいいですよね。自分の心の中にはさぼりたい自分もいたり、頑張りたい自分もいたり、見栄っ張りの自分もいたり。それぞれが、考えを持っているんですよ。マンガの吹き出しみたいに。
吹き出しを書いてみて、「この人はこんなことを思っている」、「この人はこんなことを思っている」と書く、という作業をやってみてください。その究極の目標は、自分の健康を守り、つらさを捨てることなので、それぞれのキャラを程よく慰めてあげる必要がありますね。

僕だったらキャラにすごく厳しくしちゃいそうな気がします。「お前、頑張れよ!」みたいな。「もっと頑張れ!」って言っちゃいそうですね。
太田さんには「頑張れよキャラ」がいるってことですよね。
それだけ太田さんが一生懸命「頑張れよ、お前!」って言うってことは、もしそうではなかったら、どうなってしまうの?と投げかけた場合、もやもやが生まれるかもしれませんね。それを絵に描いてみて、「ここでやんなかったら、ここでこうだぞ!」みたいな確認はしてもいいかもしれません。
別に多重人格って言うのではなくて、単純に人間には色んなモードがあるのですよ。「頑張れよ、お前!」モードとか、「もう、無理」モードとか、「ノリノリです!」モードとか、色んなモードがあります。それぞれがちゃんと自分の大切な一部なんですよね。
だから、そのどれかが著しく強くなりすぎてしまうと少しつらい思いをすることもあるのです。「頑張れよキャラ」がちょっと今強いなと思ったら、頑張れよさんにちょっと「どうした?」って聞いてあげるといいですね。
自分の中のキャラが生まれるきっかけ
「頑張れよキャラ」はなんできてしまうんですか?僕結構自分の中ではそのキャラが強い気がするんですよね。いただいている中で、(「頑張れよキャラ」が)強い子も多いんではないかという気がしたんですけど。
「もともとの性格」と言ってしまえばそれまでかもしれませんけど、生きてく中で、そのキャラがいたことによって生き残れたというとこもあるのです。そのキャラが役に立ってたとこもある。
例えば、そのキャラでいろんな難所を乗り切ってきたとか。「この間も頑張ってうまくいったではないか」みたいな時にますます頑張れよキャラは強くなるんです。
でも、年齢によっても行動は変わるし、場所によっても自分のなすべき役割は変わります。「頑張れよキャラ、今そこまで大きい声を出さなくても大丈夫だよ」といってあげる。そうすると結構自分を守りやすかったりします。そうするとさらに健康に生きていけるのかもしれないですね。
自分の中に何人もキャラがいることは、おかしいことではないですか?僕は頑張れよキャラがめちゃくちゃ声が大きいです。でも、自分の中には友達に甘えたい、「ねえねえねえ」って絡みたい自分もいるのです。それを「大人キャラ」みたいな自分が、「キモイからやめなよ」って制する。でもなかなかやれない。
その中で戦っていることも、おかしいことなんではないかなと考えるのですが、そういうキャラがいっぱいいるというのは自然なことなんですか?
何人もキャラがいるのは変じゃないの?
いくつかいても全然おかしくないですね。子どもの時に特定のキャラが自由奔放にふるまうことで、怒られた記憶があると大人キャラはそれを制するかもしれません。「お前がそんなに騒ぎ出すと怒られるから、静かにしろ」と。でも何事も程度の問題で、大人キャラが自分の自由さって言うのをあんまり抑えすぎてもよくないはずですね。
死にたいほど苦しくなる背景には、「自分の中にあるキャラの中で今このキャラが強いな」「このキャラが強いことによって自分にはストレスが強くなっているな」「なんだかプレッシャーが強くなっているな」みたいなものがあれば、少しその頑張れよキャラさんと話をしてみてください。
「今は大丈夫、今は少し緩めたって、死にやしないから、今頑張らなくたって、死にやしないから」と。今度ホワイトボードでも立てながら、お絵描きしながらしゃべってもいいかもしれないですね。

井上祐紀先生から10代へのメッセージ
なるほど。ありがとうございます。さて、そろそろお時間となりました。井上先生ありがとうございました。最後に井上先生から10代の方にメッセージをいただいてもいいですか?
はい。ぜひ逆転の発想をしてみてください。自分を好きになる必要はないかなと思っています。自分のダメなところも、足りないところも、よーく知っていても、生きることができます。
別に強い人間になる必要もないと僕は思ってます。自分を好きになる必要もないし、強くなる必要もない。自分を好きになれなくても、強くなくっても、生きていくことができます。
そして自分がどんなキャラを持っていたとしても、自分の中でうまく折り合いをつけて、生きていく道って実はあるのです。それはまたこういう機会を通じて一緒に考えていけたらいいかなあと思います。

ありがとうございます。では最後に私のほうからも。
僕自身は10代のころを思い出すと、自分はもっと頑張らないといけないとか、もっと成長しないといけないということばかりを考えていて、自分がいい時間を過ごすということをやっていいということ、気持ちいいと思うことがあっていいんだということを全然思えていなかったと思います。いい時間を過ごすということは大切にして欲しいなという風に思います。

僕はオープンなゲイで、男性が好きなんです。10代のころはそれですごく悩んで、苦しかったし、生きているのもずーっと嫌だったのです。しかし今思うのはあんな経験は無かったほうがよかったけど、あってよかったって思うのです。つらい気持ちは無いほうがいいってきっと思うし、実際に無いほうがいいのだけれど、いつか「無いほうがよかったけどあっても良かった」って思える時がみなさんにもくるかもしれません。
今のつらい気持ちが糧になる時が。ひとりの先輩として知ってもらえたらなという様に思います。
井上先生ありがとうございました!
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